さぬき山脈の東部、胎蔵峯の窪地に四国八十八ヶ所霊場最後の札所「大窪寺(標高約500m)」がある。矢筈山(787m)と3つの女体山(長尾女体山774m、石田女体山761.7m、東女体山673.5m)に囲まれて、ひっそりと静かにたたずむ風光明媚な聖地である。
第87番長尾寺から南方へ、胎蔵峯を仰ぎながら第88番大窪寺へ向かう。途中道沿いに「おへんろ交流サロン」がある。四国遍路に関する古くからの資料が展示されてあり、休憩スペースも設けられている。
ある資料によると、四国八十八ヶ所霊場を巡拝しているお遍路さんは年間10万人とも15万人ともいわれ、車やバスや自転車等、様々な巡礼者が旅をしている。本来の歩き遍路の道程は約1200㎞、通算42日前後の旅となる-。平成29年(2017年)の歩き遍路者数は日本人2409人、外国人328人。その後、コロナの影響で令和3年(2021年)には国内884人、国外から15人と激減、最近になってまた増えて来ているとのこと。
交流サロンから大窪寺までの距離は、古くからの遍路道では約11㎞、女体山を越えるコースだと約8㎞、どちらを歩いても3時間程度。長い旅の最後、巡礼遍路には、言いしれない感動がこみ上げる結願の道である。
その日は、女体山越えの林道を車で登って行った。7月中旬とはいえ真夏のようだ。昔は女体山の北側に大窪寺があって修験者の行場になっていたらしい。所々にそういった看板がある。あいにく山頂の近くで工事中、工事をしている人に聞くと復興は秋になるとのこと。秋が深まった寒い日に山頂に登るとすごい雲海が見えると教えてくれた。引き返して通常の道を走り、一度大窪寺に参拝して、今度は南側の林道から女体山へと登って行った。
四国霊場の多くは、イヤシロチと呼ばれる清浄な気が集まる場所に建てられている。
山岳修験道では、山の稜線を山霊が走る「龍脈」と見たて、山霊の気が集う場所を「龍穴」と呼び、その山霊のエネルギー(気)と接触して修行の効果を上げるという教えがある。
山の頂と谷間の高低差、地形や地質や植生、水の流れ、太陽の陽ざしの巡り、風の動き…。月の満ち欠け、星の運行、時の巡りや方位の巡りによっても「気」の質は変化する。
以前、女体山の風水を知りたくて、国土地理院の白地図に標高50m間隔で色づけをして「胎蔵峯風水図(写真)」をつくっていた。今日はこれを持って山を探検する。この地図を眺めていると、日本列島に見えたり、四国に見えたりする。
修験道で言う、正に龍の姿形そのものだ‼。更に密教的に考察してみると、雄雌2体の龍が交合している姿にも見える。
西方を向く雄の頭は矢筈山の斜め左ピークにあり「矢筈山頂」は心臓部のようだ。東方を向く雌の頭は「石田女体山頂」に当たり、「東女体山」に吐息を送っている。そして、雄(金剛界の龍)と雌(胎蔵界の龍)の結合(金胎不二)部位が、「長尾女体山頂」に当たる-。
それが実感できないか少しだけ散策してみた。そこで確かに、大窪寺一帯は、その新しい生命を生み出そうとしている山霊の息吹に包まれているという印象を得た。
清浄で活気に充ちた山霊の息吹は、自然の本源的なエネルギーに満ち、人々に幸運、安楽、調和をもたらす。なので、大窪寺の地を踏み、山霊の息吹を感じて静かに呼吸するだけで運気が向上する。心は安らかに楽しくなり、心身は自然に調和して癒されてゆく―。
そういった居心地のいい所は全国にも沢山あって、古くから霊峰や聖地として親しまれ、現代ではパワースポットと呼ばれている。
大窪寺から女体山の頂は見えないが、実際に登ってみると頂上には祠があって、しばらく瞑想してみた。机と椅子があるので、北方に広がる讃岐平野と瀬戸内海を見ながら休憩するのもいい。また秋の日にゆっくり来てみたいと思った。
長尾女体山には大きな巨岩が地面に食い込み屹立している。歩き遍路はそこを通って結願所:大窪寺へ降りてゆく。まるで天地の母の胎蔵から新しく生まれ変わっていくように―。
四国霊場開創1200年記念の年(2014年)、大窪寺の秘仏御開帳があって、拝観したことがあった。医術の王:薬師如来像は極採色の如来・菩薩たちに囲まれて、とても美しい姿をしていた。今も忘れることができない。納経所の方に、今度いつ御開帳があるのですかと聞くと、
秘仏なのでいつか分からないけど50年先ぐらいではないでしょうか、とのこと。は~もう一生見れないな。ただ、護摩供養のある日(毎月12日/8月は除く、28日)には本殿の内陣に入れるとのことだったので、今度はその日に合わせて行ってみよう。
梵鐘をつくことと大師堂地下道の八十八お砂踏みも忘れないように―。
門前に楽しくなるようなバスが止まっていた。お土産店で香川県産の小麦「さぬきの夢」など買って帰る。
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