2月末、霊峰・赤星山が西側から遥拝できる浦山の林道を走ってきた。
赤星山(1,453m)は、四国の瀬戸内海沿いのほぼ中央にそびえ立つ。丸い頂上から5つの尾根が分かれておりピラミッド型の山容が美しい。石鎚連峰の支脈・法皇山脈に在り、海に近く高峰であるため海と山の急激な温度差から、春先等にはその裾野に局地風「やまじ風」が吹き荒れることがある。北側と南側からの登山道がある。
北側の野田からの登山道入口には、曽我部友吉氏(1883~1972)の記念碑が立っている。友吉氏は、赤星山は不動明王の聖地であるとし、奈良の吉野山・金剛蔵王大権現の聖地、奥千本にならって、桜の苗木を登山道沿いに3,000本をも植えて行ったと伝えられている。しかも、たった一人で、つるはし片手に山道を開拓し、自前で購入した苗木を植え続けられた。後に協力者が現れ、大地川の機滝までに到り、名勝赤星ラインを完成させた。時に88歳であったと言う。しかし、思うに友吉氏の夢は道途中で途絶えてしまっている。この地方は宇摩地方といい、実現していれば、春には山頂まで美しい桜並木が続き、見晴らしのいい山頂には「宇摩志阿斯訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコジノカミ)・赤星大権現(⁉)」が祀られ、美しい山岳信仰の地、一大観光地になっていただろうと想像する。
たとえば、中国五岳の一つ泰山(1,545m)のように―。泰山は道教の聖地で、ふもとから山頂まで7,000段の石段が造られている。四国の有名地、象頭山(538m)・金毘羅さんは、ふもとから金毘羅宮までの石段785段、奥社までが1,368段―。ついでに思い出したが、ある日友人たちと奥社まで行き、堂内に入れてもらい祈願をしていた時、拝殿の奥で「ドゥォーン」という大きな霊音が鳴り響きビックリしたことがあった。神域・聖域では不思議ことが起こるものである。金毘羅さんは正月には石段が下から上まで参拝者でいっぱいになる。このことを想えば、かの泰山の石段は壮大な山道なのであろう。
赤星山が真正面にそびえて見える、郷土の一の宮神社の故・合田宮司さんから、赤星山の霊域開拓について話を聞いたことがある…夢のような話をされていた。宮司さんは神道家で博学な方であった。何度か神道の教えを教えてもらっていた。宮司さんが亡くなられた日、赤星山には季節外れの春の雪が降り、白く輝いて積もっていたのを覚えている。その後何日かに渡り、誰もいないのに神社の奥から太鼓の音が響いてくるという噂が地域に流れていた。
赤星山にはいくつかの伝説がある。昔、瀬戸内海を航行していた船が嵐に出会い、遭難しかけようとしていた時に、近くの山から「赤い星」が飛んできて、その船を救ったということから赤星山と名づけられ、崇拝されるようになったという。また、さそり座の赤い主星「アンタレス」がちょうど頂上を横切るように輝くことから赤星山と名づけられているともいう。ちなみに秘教では「アンタレス」は「聖者の都・シャンバラ」の奥の院であると言われている。
赤星山の山頂は平らでそこからの眺めはすばらしい。南方には四国山地、北には穏やかな瀬戸内海(屏風のような山が太陽のヒをウチ返し海に鏡のように映すことから「ヒウチナダ」と呼ばれている)とその海岸線の平地、島々、遠く中国地方も見渡せる。山頂付近には、珍しいカタクリの群生地がある。5月の連休近くには美しい薄ピンク色の可憐な花が咲き並ぶ(下記写真)。またある初夏の日、山頂で一夜を過ごした時のことである…静かな夜、そよ吹く風の中、小さく光るホタルたちが飛ぶのを見た。1,400m級の山頂にホタルが飛んでいたのである。ちょうどその頃、ふもとの郷土で絶滅したホタルを甦らそうという活動に関係していたこともあり、かつてのホタルたちは郷土から追われ追われて、赤星山頂までやってきたのかと、悲壮に想ったことを思い出す。とにかく感動的であった。
野田・赤星ラインから山頂までは約4時間。北側からの登山道は他に面白(つらじろ)川の上方、林道の終点から登る道があり、山頂まで2時間ほどである。郷土の小学校からは赤星山が真正面に見える。毎年、6年生になる児童が先生や保護者同伴で赤星山に登山するという伝統がある。山頂に登ると、雄大な景色とともに自分たちが通う小学校も見える。そこで、みんなで校歌を大声で歌う。その歌声は無線によってふもとの小学校の教室に流されるのである。
南面からの登山は、嶺南の中尾地区近くの林道を登りつめたところから、約2時間で山頂に至る。以前友人と、大晦日の夜に登り、山頂で初日の出を拝んだ年があった。登山道には雪が積もっていた。何度か登ったが、南面の森は、北面よりも明るく穏やかな雰囲気がある。それに、尾根伝いに上へ上へ道なき道を登って行っても山頂にたどり着ける。山頂付近にはシャクナゲの群生地があり、赤星の神を祀る碑がある。ある日には、アサギマダラ(長距離を飛び渡る蝶)たちが優雅に舞っているのを見た。ある年の初夏には、中尾林道の終点付近で、山肌一面に点滅するホタルの光を見たことがあった。まるで巨大なクリスマスツリーにいくつもの小さな光が灯り、点滅を繰り返している驚異の光景であった。かつて山頂で見たあのホタルを不思議に思っていたが、その光景を見て解ってきた。何とも美しい赤星山の数々である。 2019.3.8
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